今シーズンになって「レプリコンワクチン」という、従来からあるmRNAワクチン(メッセンジャーRNAワクチン)をさらに進化させたワクチンがデビューしました。
ワクチンの歴史は
「体内の免疫細胞に認識させる病原体あるいはそのパーツを、私たちの体に対していかにダメージの少ないものに変えてゆくか?」
という技術開発の歴史です。
技術の乏しかった黎明期には、毒性は弱いけど実際に生きているウイルスを体に入れてしまうという方法(生ワクチン)が主流でした。
「実際に一度かかってしまう」ことで強い免疫が獲得できますので、現在でも麻疹、風疹、みずぼうそう、おたふくなどに使われています。
強い効果と裏腹に、弱い感染症状が出ることもあり「できることなら、生きているウイルスは体に入れたくないなぁ」という方向に開発は進み
培養したウイルスをホルマリンで処理して(死なせて)そのなきがらで免疫細胞に認識させる、という方法(不活化ワクチン)が開発されました。
インフルエンザワクチンがこのタイプに入りますが、効き目的にはやや劣るためにお子さんでは2回の接種が必要となります。
時は流れて数年前にmRNAワクチンという全く新しいタイプのワクチンが誕生しました。
その理屈は、ワクチンでありますから病原体の一部をからだの中の免疫細胞に認識させて、そのウイルスに対する免疫をつけるというところまでは、
従来のワクチンの考え方と全く同じなのですが、画期的に異なる点は
体内に入れるものは、ウイルスや、ウイルスのパーツではなく、科学的に合成したウイルス表面のパーツの設計図である遺伝子(RNA)で、
私達の細胞内のタンパク質の合成装置によって、設計図からそのウイルスの表面パーツを合成し、それを免疫細胞に認識させるという点です。
当初は「私達の体内に、ウイルスの遺伝子が入る」ということで「気持ち悪いなぁ」と感じる方も数多くいらっしゃいました。
しかしながら、この方法は理屈の上では以前から想定された「きわめて合理的」な方法です、
開発の歴史は、あっという間に分解してしまうmRNAをいかに私達の細胞🄱内に運び込みタンパクを合成させるかという課題との戦いであり。
実際に私達の体内に入ったRNAは1週間ほどで分解してしまいます。
言ってみれば「あとくされがない」のです。
そして今回デビューした「レプリコンワクチン」の登場に到るのですが、基本的なメカニズムは従来からのmRNAワクチンと同じです。
「ひとひねり」を加えたポイントは、遺伝子の自己増殖を助けるレプリカーゼという酵素をを遺伝子と一緒に注射をします。
言い方を変えれば従来のmRNAワクチンと同じ設計図とともに、コピー機を一緒に運び込むようなものです。
そして体内に入った設計図たるmRNAを一定期間(半月ほどと言われています)増殖させて、免疫細胞に効率よく長期間提示するのです。
この方式の優れたところは、設計図が体内で増殖してくれるので、最初に体内に入れるRNAの量が極めて少なくて済むというポイントです。
「あとくされなく分解されるもの」とはいえ、私たちにとっては「異物」である物はできる限り少なくした方が副反応が緩和されるという理屈です。
それに加えて、従来のワクチンでは1週間程度で消滅していたRNAが半月以上持ちますから、効き目が長くなるという期待がかけられています。
言ってみれば「夢のワクチン」なのですが、実際には発熱等の副反応は従来型に比べて劇的に減っている訳ではないようです。
効果の持続に関しては、従来のmRNAワクチンが「3か月ほど」であったのに対し、「6か月は効く」というふれ込みですが、
実際には1年くらい効果が持続するのではないかとも言われており、まだ期待を持っていてもいいのかもしれません。
このワクチンに対して「自己増殖する」という部分が「ウイルスそのものが増殖する」ととらえられてしまったところがあるようで、
「このワクチンを受けた人はウイルスをまき散らし続ける」との誤解を招いているようです。
そういったことを心配している方が使う「シェディング」という言葉は、生きているウイルスなどの病原体が伝搬することを指す言葉なのですが、
一時的に増殖されるのはウイルス表面のタンパク質の突起の設計図であり、その結果生産されたタンパク質の突起が免疫細胞に認識される。
ということで、そもそもにして生ワクチンとは異なり生きているウイルスは一切使われていません。
生きているウイルスが増殖されるようなワクチンがあったら国から認可されるはずはありません。
認可というと世界中で最初に認可したのが我が国であるという点を気にして
「開発国の連中は、日本人をモルモットにしようとしている」
と、おっしゃる方もいるようですが、たまたま手続き的に少し早く済んだだけで、諸外国でもおいおい認可されるようです。
あえて「早かった理由」をあげるならば、「国産ワクチンに頑張ってもらって、売り上げが外国に行かないようにする」くらいでしょうか。
また、ベトナムでの治験(製品を実際にボランティアに投与して、副反応や効果を検証する作業)において、「接種後に死者が出た」
ということを気にかけている方もいらっしゃるようですが、よくよく調べてみると、
亡くなられた方はすべて新型コロナの感染で亡くなられており、そのほとんどは偽薬(治験のために使う、効果の無い注射)を使用された方で、
裏を返せば「接種をした方は1名を除いてコロナ感染で亡くなってはいない。」という効果の裏付けのようなものでした。
話の種としては、新しいタイプのワクチンの登場は興味深いことであり、今まで
「ひと様に注射するものは、極力自分にも打ってみる」という主義だったので、
今回のレプリコンワクチンも「試しに打ってみてもいいかな」とも考えたのですが、実は大きな問題点がありました。
それはワクチンの入っているバイヤル(薬瓶)が、1本で16人分という点です。
人数が集まらないと使わなかった分はその日のうちに廃棄することになり大赤字になってしまうので、
ちょっと手が出せない状況になっています。
これは「1本で5人分」のモデルナ社製のワクチンにおいても同じ構図で、
当院の新型コロナワクチン接種は現在、結局のところ「一人で一本」の「ファーザー社製一択」になっています。
本来であれば、ご希望の種類のワクチンを接種することが望ましいのですが、そういった事情でワクチンの種類の選択ができないことをお許しください。